アニメファンのための谺健二作品ガイド(になるといいなあ)

アニメーターの児玉健二氏が谺健二名義でミステリも書かれている、ということは
作画wikiにまで書いてあるのでコアなアニメファンには有名なことと思いますが
谺健二の作品を愛読しているアニメファンを僕はあまり知りません。
刊行された最新の作品であるはずの『肺魚楼の夜』からそろそろ5年が過ぎ、
新しく興味を持つ方はこれからますます少なくなっていくような気がしたので、
あまりミステリを読まないアニメファン向けに谺健二について紹介するような文章を。


まず、谺健二の小説の特徴について。
その多くの作品の背景に震災(1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災)があります。
(そもそも震災が小説を書くきっかけだったそうです)
そして、作品の全てが非常に重い。内容的にも文章量的にも。
例えば鮎川賞受賞のデビュー作『未明の悪夢』では冒頭から文庫100ページ以上にわたって
登場人物達の「それまで」が書かれていますが、これは一般的なミステリの文法的なものから明らかにかけ離れています。
なぜなら(謎解きであったり、犯人につながるような)ミステリ的な効果はほぼないと言っていいからです。つまり人物を描くための100ページ。
(谺健二が人間を描くことを重視している、というのは愛川晶『海の仮面』光文社文庫版の解説からもうかがえますので
気になる方は読んでください)
そして彼等が「未明の悪夢」、つまり震災に遭遇し、また事件が起こるのです。
その物語が結末に至っても、読者が大きなカタルシスを得ることは、ない。
そもそもが震災の物語ですので。


このような小説を軽い気持ちで読むことは、多分無理です。
僕はアニメファンの某氏に勧めましたがギブアップされました。
何が言いたいのかというと、ある程度の覚悟を持って手を出しましょう。


(余談ですが、谺健二の取材については例えば以下の文章を参照されたし。
初出は確か『恋霊館事件』ハードカバー版の解説。
http://www.horiuchimasami.com/essay/essay_13.html)


さて、谺健二の面白さ、そしてミステリ作家としての魅力とはなんぞや、というと
やっぱりその重さであるわけです。またミステリというジャンルの豊かさの一端も味わえます。
そして文章も素晴らしい。特に目立つのは『赫い月照』の作中作で、それは混沌そのものを鮮やかに描き出し、おかしな世界を苦痛なく読ませてくれます。
谺健二は、重いけれど読み辛さは全く感じないのです。


ちょっとでも興味をもたれた方、
『未明の悪夢』
「くちびるnetwork21」(『新世紀犯罪博覧会』収録)
『星の牢獄』
のどれかから入るのをおすすめします。それぞれデビュー作の第一長編、短編、独立した長編です。
後は、『未明の悪夢』→『恋霊館事件』→『赫い月照』→『肺魚楼の夜』が1シリーズ
残った作品で『殉霊』、「新・煙突綺譚」(『新世紀「謎」倶楽部』収録)『堕天使殺人事件』(リレー小説)
で全ての作品が読める(はずです)
一日何ページ、と読むよりも休日を使い一気に読み終えた方がいいと思います。


谺健二の次の作品が読みたいなあ・・・